変わることなく変わり続けよう

オーラルフィジシャン医院の価値をひとことで言えば、ソーシャルデザインにつながる医療の実践にあります。ソーシャルデザインとは「社会的な課題の解決と同時に、新たな価値を創出する画期的な仕組みをつくること」です。今までの取り組み、予防歯科・MTM・データ化などは、ソーシャルデザインにつながる可能性はありますが、現状は歯科業界のビジネスデザインに留まっています。
誰もが知っているナイチンゲールのソーシャルデザインは、近代医療が成立していない1800年代、統計学に基づく近代看護の概念を構築したことにあります。衛生状態の改善によって人々の生存率が向上したという自らの主張を裏づけるために、データを分析し、客観的な根拠に基づいた医療を実践したのです。それによって、当時は医師の使用人あつかいをされていた看護師の地位が見直され、専門的な職業として認められたのです。とかくナイチンゲールといえば、道徳的側面から彼女の言葉や生き方にスポットが当たりがちです。しかし、評価するべき功績は当時の世の中でソーシャルデザインしたことにあると思います。
熊谷崇先生はじめ先達の功績によって、オーラルフィジシャンは単なる医療的技能者からソーシャルデザインする医療者に手が届くところまできています。あと一歩は、時代と社会の要請に応えて変わる行動力ではないでしょうか。それは、単なる現実対応の歯科医療のビジネス化とは異なります。先達の知識の蓄積であるアカデミズムの土台の上に、新たな実学を築くことです。

いま必要なのは歯科医療の仕組みの根本的アップデートです。オーラルフィジシャンの最終目標は、行き詰まってしまった「歯科の古いあたりまえ」を塗り替えて、「歯科の新しいあたりまえ」を私たちの社会に定着させることです。熊谷崇先生からバトンを渡された松野英幸先生や畑慎太郎先生においても、「アカデミズムの土台の上に新たな実学を築く」信念は揺らぐことはありません。異なる価値観を理解する力も磨き、さらに進化していきます。オーラルフィジシャンとして変わることなく変わり続ける松野先生と畑先生のリーダーシップに注目していきましょう。そして期待してください。

SAT事務局 伊藤日出男