SAT 真の患者利益のため予防歯科を中心にした歯科医療へ

歯科界の常識を超えるためのパブリック・コメント

活動報告


「人口減少・少子高齢化社会における歯科医療の役割」および「ディスカッション」の総まとめ

                                                      熊谷崇

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リンダ・グラットンらの著書「ライフシフト 100年時代の人生戦略」が発端となり、「人生100年時代」ということばがあちこちで使われている。世界一の長寿国日本では、国をあげて100年間またはそれ以上に対応する設計が必要なのである。












「人生100年時代」にこれまでの生き方は通用しない。退職年齢は80歳まで延長され、現役時代には仕事の他に生涯教育が必須になるだろう。そのような時代において、歳を取っても健康であり、生産性があること、すなわち無形資産が大切である。












ところが、100年間の健康を支えるはずの現行の健康保険制度は、給付費が年々増大し、もう限界であることは、誰の目にも明らかである。













毎日のように医療費の問題が取り上げられ、これに関するニュースを見ない日はない。限界を目前にした健康保険制度を持続可能にするには、余裕のある層の負担額を上げ、グレーゾーンや無駄なサービスに使われている給付額をカットすることである。






















歯科診療医療費は、国民医療費の中で64歳以下では第一位、全年齢では第三位を占める。それほどメジャー分野である歯科がこの改革から免れることはないだろう。













現在、ほとんどの後期高齢者がほとんどの歯を喪失し、約90%が義歯装着者になっているが、メディカルトリートメントモデル(MTM)を用いれば、KEEP28を達成することが可能である。

























MTMでは初期治療時に原因を除去するため、患者は齲蝕と歯周病のリスクがコントロールされて、再評価2で疾患の再発はしない状態、つまり、メンテナンス時には健康になっていることが原則である。

























メインテナンスプログラムでは、患者教育が最も重要で、新しいテクノロジーを用いて、患者カルテをクラウドに保存して、患者がいつでもどこでも見られる。


























MTMにより、乳幼児から高齢に至るまで、長期メインテナンス期間中、口腔内は健康なまま保たれる。














Akiyamaら(2008)の研究により、歯の喪失が健康寿命を短くしている可能性がある。

つまり、MTMで歯の喪失を防ぎ、自立して健康で活躍できる期間を延ばせるのではないだろうか。












う蝕と歯周病に関して科学的に原因と対処法は決着がついている今、課題は社会システムをどのように変えていくことである。社会システムの中には様々なステークホルダーが存在する。今回のチームミーティングでは、行政、病院、マスメディア、企業の代表的な演者が参加していただける。2日目には、行政の中枢にいる江崎禎英氏が講演され、日本の社会システムをどう変えていくのかについてお話される。








<ディスカッション>


ディスカッションでは、「人口減少・少子高齢化・社会保障費の増大という未曾有の危機に対して、庄内地域(酒田)をモデルケースとして捉え、この危機に対してどのように取り組むか。」を課題とし、3つのテーマが与えられた。

 

テーマ1は、「庄内地域(酒田)を興そうと改革する上で苦労したこと、苦労していること」であった。このテーマに地域単位の介護制度の見直しを掲げたい。誤解のないように強調するが、これは日吉歯科診療所のメインテナンス患者で、要介護になった患者を訪問診療することとは違い、地域全体の要介護者を対象にする抜本的改革である。酒田市は人口が10万人のところ、高齢者(65歳以上)が、3万5千人を占める。そのうち要介護者数は約7千人、約1千人が介護施設に入居している。 介護施設入居者の介護レベルは要介護1:42名、要介護2:100名、要介護3:266名、要介護4:302名、要介護5:362名となっている。この人たちの口腔ケアは残念ながら満足の行く状態ではない。学校検診の改革に取り組んだように、一診療所の患者のサービスの向上だけでは、焼け石に水で、解決までに何十年かかるかわからない。



介護・周術期になる前からの口腔ケアの重要性を説き、フレイルに陥る前にできるだけ上流で止める。治療から予防にシフトしたとしても、歯科領域の担い手はいつも歯科医院(歯科医師、歯科衛生士)であり、このシフトを起こしやすい。












介護制度の抜本的改革には、開業医が日常診療に並行して訪問診療を行っても、限界がある。その解決策として、スウェーデンのオーラルケアABという企業を紹介したい。彼らはスウェーデン国内の要介護者(施設、自宅の両方)への訪問歯科診療を地域単位で引き受けている。











歯科診療を行うだけでなく、診療アウトカムについて、施設ごとにデータを公開して、事業の改善も行っている。このような組織体を酒田に作り、演者のお一人、栗谷義樹先生の日本海ヘルスケアネットと連携することで、この地域全体の要介護者への口腔ケアが、一気に改善されるだろう。ディスカッションの中で、栗谷先生、丸山至市長もこのプランに合意を示してくれた。遅々として進まなかったこの最後の課題が俎上に乗った意義は大きい。







テーマ2は、「改革できた成功事例」であったが、ここでこの数年急速に進んだ歯科と企業の連携を挙げたい。発端は平田牧場だった。健康経営(経営者が従業員とコミュニケーションを密に図り、従業員の健康に配慮した企業を戦略的に創造することによって、組織の健康と健全な経営を維持していくこと)のために、従業員とその家族の歯科メインテナンスに企業が補助金を出し、従業員は就業中でもメインテナンス来院できるようにしてくれた。平田牧場の新田社長の英断である。新田社長はご自身が10年前に日吉歯科診療所を来院されてから、それまで繰り返していた口腔疾患の問題がなくなった経験を通し、予防歯科の重要性と確実性を実感されたそうである。酒田では、平田牧場からホテルリッチ&ガーデン、上喜元、サーモテクノと地元企業が次々と類似の補助を出してくれた。このような地方都市の中小企業の動きが、続いて全国規模の大企業(富士通、湖池屋、東京海上日動、三井健康保険組合)へと波及した。歯科関係会社の大手(ナカニシ、シロナ、モリタ)も後に続いている。



日本経済新聞2019年9月3日1面に載ったように、政府は今秋、医療や年金など社会保障制度の全体像を見渡した改革を再始動するそうだ。予防医療に積極的に取り組む企業を補助金などで支援し、社員の負担を軽減する案などを検討するとのことである。このように、時代の流れは予防医療を国民健康保険に組み入れるのではなく、支援によって医療費の抑制や治療期間の短縮を後押しし、膨張する社会保障費を抑制する方向である。








テーマ3は「2040年をターゲットにした庄内(酒田)、ひいては日本を救う処方箋」であった。歯科医療からはメインテナンスについてディスカッションしたい。多くの人がメインテナンスと定期検診や定期健診を同じものとみなしているようである。しかし、AxelssonとLindhe(1981)の6年間の研究で、メインテナンスなしの定期検診(非メインテナンス群)では、齲蝕と歯周病の進行を防ぐことはできないと示されている。






















そして、同じ研究の30年後には、長期に渡ってメインテナンス群でほとんど歯を失わないことも明らかになった。














日吉歯科診療所の長期データも同様の結果を示している。若年者や中年の患者の約9割は歯周組織の病変が治癒し、日本の健康保険制度の下では保険適応外になる。


























このことについては、酒田市広報2018年11月号で「口の中に疾患がない場合のメンテナンスは保険対象外になります」と明記され、日吉歯科診療所に通う患者に説明をする上で随分、説得力が増した。











日本政府や支払い基金も国民健康保険のテコ入れを次のような方針で行っている。




























一橋大学の井伊雅子教授は、国民健康保険に対して「世界でも類を見ない自由放任主義的な医療提供体制」と指摘し、政府に対して「医療者が行う診療の質を担保する仕組みを導入すべき」と提言している。例えば、胃炎の患者にプロトンポンプ阻害薬(PPI)を処方したい時に、最初の検査から保険を適用するために胃潰瘍として請求したり、心筋梗塞の患者にアスピリンを処方したい時に、保険を利用するために病名を風邪と書いたりすることが知られている。そのような保険請求の矛盾が一つひとつ指摘されていくだろう。

 

健康な人をメインテナンスしたい時に、P病名をつけてSPTとして請求している歯科医院では、一日50人そのような患者がいると、1年間あたり国保から8,400万円支払われる。



今後の歯科診療の市場構造は、保険診療による従来型歯科診療が淘汰され、自費メンテナンスを中心とした歯科診療、保険診療による地方包括型歯科診療で二分されるのではないだろうか。

2017年のチームミーティングで、英国歯科医師会前会長のウィルソン先生の話では、英国歯科医師の収入は、国民保険と自費診療(プライベートの保険を含む)で50%、50%ということだったが、2年経った最新情報では、自費診療の割合が増加傾向にあり、56%である。


(オーラルケア大竹氏講演スライドより)




昨今、慢性炎症と健康長寿の関係が言われ出した。歯周組織の慢性炎症をコントロールする歯科分野は長寿の鍵を握っているかもしれない。











昨今、慢性炎症と健康長寿の関係が言われ出した。歯周組織の慢性炎症をコントロールする歯科分野は長寿の鍵を握っているかもしれない。














<チームミーティングの締めくくり>


今年のチームミーティングで明示された人口動態に関する様々なデータ、保険診療に対する政府の方針、歯科疾患の臨床データなどを考慮して、現在、健康な人のメインテナンスを国民健康保険で請求することは、どう言い訳してもルール違反だと否定できない。日吉歯科診療所がNHK「プロフェッショナル仕事の流儀」やテレビ東京「カンブリア宮殿」で放送されたのも、社会のルールを守っているという前提があったからである。保険のルールに従っていなければ、いくら患者に利益を提供していても社会人として許されないのである。「OP歯科医院」と名乗る場合も同様に、王道を行く歯科医院であるべきことを理解してほしい。言い換えれば、公言できないような保険請求をしている歯科医院は、「OP歯科医院」と名乗ることを止めていただきたい。