ワールドスタンダードの歯科医療を目指している「オーラルフィジシャン育成セミナー」では、海外の歯科医療のあり方や最新の情報を知ることを目的に、海外研修セミナーを行ってきました。
3回目の今回は、アメリカテキサス州ヒューストンにおいて、アメリカ歯周病学会前会長であったマイケル・マクガイア先生の全面的な支援のもと、4日間のセミナーと診療所見学を行いました。
事前に打ち合わせてあったとはいえ,マクガイア先生が準備して下さったセミナーの内容は大変素晴らしく,また、会場の設営や運営も万全でした。見学させていただいた3軒の診療所の訪問も素晴らしい経験でしたが,何より診療中の見学を許していただいたマクガイア先生の診療所での経験は,全米屈指の歯周病専門医としての歯科医療の水準の高さを感じられただけではなく,歯科医療に対する真摯な態度や、どんな場面でも笑顔を忘れずに患者さんやスタッフを気遣う、医療人としての人間性にも学ぶところが大きかったように思います。
また、セミナー終了後にはご自宅を開放して,すべての参加者や関係者を招待してのパーティーを用意して下さったことも驚きでした。米国の一流の歯科医師がどのような生活であるかということを参加者一同、肌で感じたことと思います。もちろん,日本における私たちの目標がそこにある訳ではありませんが,それだけの価値のある歯科医療を目指していると考えれば,これからの歯科医療を日本で進めていく時にも、プライドを持って推し進めてゆくことができるように感じてもらえたのではないかと思いました。
今回の参加者は,時差もある中で,どん欲に多くのことを学ぼうとする姿勢を崩さず,講義を受ける時も診療所の見学をしている時も,またホテルでの自由時間においても節度ある対応と行動で臨んでくれました。事故もなく、無事終了できたことを大変嬉しく感じています。
今後,今回のセミナーの成功を足がかりにして,マクガイア先生と私の友好的なパートナーシップのもとに,継続的なセミナーの開催について合意いたしました。セミナーの形が今後どのようになるかについてはこれから詰めてゆくことになりますが,できるだけオーラルフィジシャンとしての土台の上に積み上げていくような形のものにしてゆきたいと考えています。いうまでもなく,オーラルフィジシャンとしての実績をしっかり積み重ねた上でなければ、専門的で高度な歯科医療を臨床で展開できないからにほかなりません。今後の展開にご期待いただければと思います。
マクガイア先生、奥様,スタッフの方々はじめヒューストンでお世話になった皆さん,そしてセミナー参加者のみなさん、いつも適切な通訳をして下さる岩上早苗さん,また大竹喜一さんとクッキー大谷さん、そして宮本貴成君にはこのセミナーのコーディネーターとして十分に役割を果たしていただき、本当に有難うございました。
スケジュール
研修日程表 | |
4月26日 土曜日 | 現地集合 |
4月27日 日曜日 | 講義:Periodontology 「Integrating Clinical Periodontology into your practice」 歯周病学の臨床への応用 Dr. Michael K. McGuire Dr. E. Todd Scheyer |
4月28日 月曜日 | 診療見学 Dr. Michael K. McGuire Dr. E. Todd Scheyer |
4月29日 火曜日 | 講義:Endodontology 「The Essentials of Endodontics: The Incorporation of Evidence Based Concepts to Maximize Your Clinical Success.」 歯内療法の要点:臨床を成功へと導く、根拠に基づいたコンセプトの導入 Dr. Manish Garala |
4月30日 水曜日 | 講義:Occlusion 「Occlusion In The 21st Century Dental Practice」 21世紀の歯科医療における咬合学 Dr. Ernie Anderson Dr. Norman Chu |
5月1日 木曜日 | 開業医見学 |
5月2日 金曜日 | 東京着 |
Houston研修概要
2008年春、オーラルフィジシャンの海外研修が米国ヒューストンで開催されました。
本研修プログラムは元AAP会長で歯周病専門医のMichaelMcGuire先生に学ぶ卒後教育コースです。
McGuire先生のコースは米国で最も人気の高い研修の一つで、米国内の歯科医師にとっても滅多に参加できるものではないとのことです。
今回の研修はMcGuire先生のご厚意により準備された極めて異例なもので、この貴重な機会に28名(歯科医師22名、衛生士6名)が参加しました。
【4月27日】
研修初日はMcGuire先生Scheyer先生による歯周病の講義です。
A Comprehensive Program in Clinical Periodontics
(講師)Drs. Michael McGuire and Todd Scheyer
(プログラムアウトライン)
歯周病の病因、宿主とリスクファクター、診断、診断、初期治療、非外科処置、
再評価、治療計画、外科処置、歯周整形外科、インプラント、メインテナンス
(講義概要)
歯周病は口腔内に様々な変化をもたらすが、歯の喪失による顔貌変化は社会的地位に関わる事もあれば全身疾患にも影響を及ぼすこともある。
歯周病には適切な診査診断及び治療が必要である。歯周治療の中で最も大切な事は再評価であるが見過ごされがちであることも事実。
再評価の結果、予後を予測し、医師としてその人にとって何がベストかを保険云々でなく提示する。
歯周病専門医では、GTR、骨移植、歯冠長延長術、根面被覆、インプラント等、最新の材料を用いて行われる。治療後のメインテナンスは重要事項でこれを欠くと歯牙の喪失を早める。
【4月28日】
診療見学
実際の患者さんが来院するなかで診療室を丸一日完全に解放していただき、米国における歯周病専門医の日常の診療風景を見学しました。インプラント埋入手術が4症例、他衛生士業務を自由に見せて(魅せて)いただきました。McGuire先生、Scheyer先生、スタッフの立ち振る舞い、応対、技術を肌で感じる事ができました。参加者にとっては何事にも代え難い貴重な体験、財産になったことと思います。
【4月29日】
歯内療法専門医のGarala先生によるレクチャー
Cutting Edge Endodontics
(講師)Dr. Manish Garala
(プログラムアウトライン)
根管解剖、根管形成、Ni-Ti File、根管拡大、感染根管、Canal Debridement、根管充填、根管治療後の予後、破折、外科療法
(講義概要)
根管治療を行うにあたり生物学とサイエンスを抑えること。最も大切な事は根管形成でなく、歯随、感染象牙質、細菌等根管内容物の除去である。
根管の拡大はNi-Tiファイルが有効。器具の特徴をよく理解した上で使用する事。根管Debridementは機械的拡大と薬液による消毒・洗浄の併用が有効。根管充填においては殆どの症例で垂直加圧法を用いる。適切に処置すれば、根管治療の成功率は高く、失敗の原因は補綴処置をせずに放置したものが多い。
【4月30日】
Anderson先生とChu先生から咬合についてのレクチャー
■午前
Occlusion In The 21st Century Dental Practice
(講師)Dr. Ernie Anderson
(プログラムアウトライン)
咬合に伴う症状、診査、TMJ、中心位、Occlusal Bite Splint、咬合様式
(講義概要)
修復補綴の前には咬合の管理を行う事。病歴、口腔内診査、顎運動、筋触診、X線等の診査が必要。中心位の再現にはDowson法が有用。Occlusal Bite Splintの使用により下顎頭を中心位にシートさせる。中心位で全歯牙接触、側方運動時には前歯誘導。
■午後
Occlusion: The Healing Art in Dentistry
(講師)Dr. Norman R. Chu
(プログラムアウトライン)
Case Discussion、総合診断、Occlusal Splint Therapy、咬合調整、Restoration
(講義概要)
臨床における治療術式のプレゼンテーション。
治療手順のベースは、各種診査・総合診断、スプリント療法、咬合調整、修復補綴。3つのケースを用いて示唆。何事も患者との信頼関係を得る事が大切である。
■サティフィケート授与式
研修終了後、参加者はMcGuire先生の自宅に招かれ豪華なディナーとサティフィケート授与式に臨みました。米国の超一流歯科医師の素晴らしい自宅に一同言葉も出ません。グランドピアノの生演奏とともに夕食を楽しんだ後、プールサイドで修了証授与です。
McGuire先生と熊谷先生がお互いの友情を確かめ合う姿やMcGuire先生から参加者へ向けられた暖かいお言葉は感動的なものとなりました。
【5月1日】
市内開業医見学
ヒューストン市内の2つのGP(Genaral Practice)と1つの補綴専門医の診療所見学です。
それぞれの医院で専門分野に誇りをもって徹底する姿が印象的でした。
医療人としての人格、施設、おもてなし、知識、技術など様々な方向からワールドスタンダードを垣間見る事ができました。
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予後と実際のアウトカムに関する4編の論文や2007年のシンポジウムでの講演からMichael K.McGuire先生が超一流のデンティストであることを認知してはいた。
今回の研修で得た最大の収穫はMcGuire先生の臨床と物腰に接する事ができたことである。特に診療見学に関していえば、米国の歯科医師ですら難しいと言われるなかで、この先得る事のないであろう貴重なチャンスを掴む為にヒューストンへ飛んだようなものである。
研修初日、我々をのせたバスが診療室に到着するとMcGuire先生が笑顔で迎えてくれた。人を引きつけるような笑みに品があり、こちらも高揚してくる。
初日の歯周病の講義では、歯周治療の基本と歯周病専門医における術式を学んだ。特に印象深かった2点は、世界の情勢がどのように流れるか分からない現状で大切なことは常に前を向いて進むこと、また治療に関しては常に患者さんにとってのベストを考えて提案することの大切さを教えていただいた事である。診療室にはベストの治療を行う環境が整備されており、二日目の診療見学に期待がかかる。
二日目は30名近い参加者が診療を自由に見学できる事を許された。もっとも患者さんにとっては大迷惑な話であるが、スタッフは常に我々に笑顔と配慮を絶やさずにオープンに接してくれたことが嬉しかった。この日はMcGuire先生とScheyer先生がインプラントの手術をそれぞれ2ケース行い、衛生士さんは自分の担当患者の診療を手際よく行っていた。手術の中には困難な例もあったが、McGuire先生の穏やかな立ち振る舞いに言葉でうまく表現できない何か一流歯科医師がもつオーラを感じた。
三日目と四日目はそれぞれ歯内療法とオクルージョンの講義、五日目は市内の二つのGPと補綴専門医の診療室見学であったが、専門医制度が整備された米国の治療水準の高さとそれぞれの歯科医師の自分の分野に対する自信と誇りを感じた。
五日間の日程は瞬く間に過ぎてしまったが、アメリカにおける本物の歯科医師を見た気がした。学問としても多くを吸収したが、McGuire先生の物腰にすっかり魅了され、自分の将来像を熟考するいい機会になった。
千代田区永田町2-11-1 2514
医療法人社団 しおん緑山会
古市彰吾