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一昨年、熊谷先生がNHK:プロフェッショナル仕事の流儀に出演された時は「熊谷崇」の生き様、信念、覚悟、プロとしての姿勢に強くフォーカスが当たっていましたが、今回のカンブリア宮殿は熊谷先生のみでなく、歯科医療の王道を歩まれている日吉歯科診療所と熊谷先生が実践している歯科医療哲学の特集でオーラルフィジシャンにとっては非常に心強い放送だったのではないでしょうか。日本歯科医療制度の制約の中での、ここまでの道のりは壮絶だったのだろうと感慨深く拝見いたしました。
日吉歯科診療所の35年間の取り組みが今改めて歯科医療の価値を高めたことは言うまでもありませんが、歯科医療がもつポテンシャルはまだまだこんなものではないという事を熊谷先生がおっしゃられていたのは、日本や世界を見渡してみてもまだまだ真の歯科医療の魅力や意義をより本質的なところまで突き詰めきれていない部分があるからでしょう。我々はそれを継承しなければいけません。口腔内の健康という誰もが必要とする普遍的なことから更に飛び出して、その箱の外に向けて変革を起こしていけるかがポイントだと感じています。この変革こそが先の読めない日本社会や日本経済へ貢献するための突破口になるかもしれません。
歯科医療に限らず、今後の医療に求められるのは、医療としての質の確保は当然であるとして、それが経営的にあるいは財政的に合理的なものが不可欠なるでしょう。現在、日本財政を圧迫しているのは社会保障の中でも医療費と年金です。医療費を抑えるためには予防医療の普及は絶対不可欠で、その突破口として歯科メインテナンスは確実に役割を果たすことができる存在でしょう。全身的に健康でありながら患者さんが定期的に訪れる医療機関は歯科医院以外には存在しませんし、口腔健康が全身健康にも大きく健康することが科学的にも明確になってきている今こそ、それに携わる歯科医師や歯科衛生士のさらなるレベルアップは不可欠です。つまり歯科衛生士は口腔内のバイオフィルムだけを管理していればいいという時代ではないということです。そこまで知識や技術が及ぶ歯科医師・歯科衛生士に成長すれば、たとえメインテナンスが自費になってもその事に誇りを持つべきですし、変化を恐れるべきではないと思います。またその結果、高齢になってもより良い全身健康を維持できれば、年金受給年齢の引き上げも可能でしょう。
そもそも日本独特の歯科医療文化というのは日本特有の歯科保健制度によって育まれたものだというふうに考えると(実際そうですが)、これからの保健制度が健康モデル主体に変化しメインテナンスが保障されて、過剰な治療費用こそが自己責任とすることで多くの国民の考え方が変わり新しい文化が育つことはドイツなどの例を見ても火を見るより明らかです。しかし日本の制度が熊谷先生の影響力をもってしても変わらないところを見ると、日本という変化を恐れる国民性の下ではとても期待できない変化だと思います。逆説的なアプローチになりますが、逆にメインテナンスに正当な価値をつけ、そこから口腔健康というのはタダではない、価値があるものだということを理解していただくというのは、見方を変えて非常に真っ当な考え方だと、私は最近考えるようになりました。これこそものの見方を変えて起こすイノベーションのいい例だと思います。
今回のカンブリア宮殿のような番組を見て、私たちオーラルフィジシャンは「熊谷先生の門下生としてMTMという手法を真似ているから大丈夫だ」と自己中心的な発想に終始せずに、このような仕組みが当たり前にできている医院だからこそ、次のステップとして何ができるのかを考え、本当に国民の口腔健康・全身健康に貢献できるのかを次世代の志士として連携を取る必要があるのではないかと思います。
末節になりましたが、熊谷崇先生、日吉歯科診療所の皆様の今までの功績に敬意を表し、これからのさらなるご発展を祈念して私の感想文とさせていただきます。今後ともご指導ご指南のほどよろしくお願い申し上げます。