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2014年に放送された「プロフェッショナル仕事の流儀」では,長期密着取材により日吉歯科の地域全体の口腔健康に貢献した成果,さらに多方面への取材により世界の歯科医療と日本の歯科医療の差異,予防歯科を実践する歯科医院の苦悩が取り上げられていました。
今回のカンブリア宮殿では,日吉歯科の成果にクローズアップされつつ,患者や歯科医療が予防歯科を実践することでこれからの歯科医療と社会全体が必ず良い方向に変わること,変わらなければいけないこと,そのために歯科医療スタッフだけではなく患者自身が歯に対する価値や歯科医院との関わり方を変えていかなければいけないことを表現してくれたと感じました.特に「プロフェッショナル仕事の流儀」の構成にはなかった,司会者(村上龍氏)の存在により患者側の考えを代弁し熊谷先生にインタビューし,熊谷先生の答えを聞くことで患者側がより考えさせられ理解が深まる部分が多かったと感じます.
熊谷先生はインタビューの中で<歯科医療の本質は何か.生涯自分の歯で食べられること,歯をできるだけ失くさないことであり,それが体の健康にも寄与すること.その重要な仕事をなんで「詰める」「被せる」に集中させるのか.歯科医療の価値は本来違うところにある>と述べられました.その中で予防歯科医療の壁として保険診療による治療価格が保険適応できないメインテナンスによる費用よりも低いために患者の歯に対する価値を低くしてしまっていること,歯科医療の本質を実践することで患者一人ひとりの健康だけでなく社会全体を健全化できることをわかりやすく伝えてくれました.司会者の村上龍氏は番組の最後に「歯科医療を超えて」と題して,<予防医学の国民的理解と普及は歯科に頼らず,すべての医療にとって,さらに財政にとって喫緊の課題である.正当な危機感を抱くこと,自分への将来的な投資という概念を広めること.熊谷先生と日吉歯科の成果は歯科医療にとどまることなく,社会全体に波及すべき重要な啓蒙活動となっている>と述べ,熊谷先生の言葉が患者代表である村上氏に届いたことを感じさせてくれました。
当院は矯正歯科医院でありながらも2006年にオーラルフィジシャン育成セミナーを受講させていただき.矯正歯科治療にMTMを導入し矯正治療完了後は自費のメインテナンスで歯を守る診療システムを行ってきました.しかし,矯正歯科治療と併せて行うメインテナンスには喜んで同意してくれるものの,矯正歯科治療完了後にすべての患者がメインテナンスに通ってくれるかというと,約半数の方が脱落してしまい,患者は従来の歯科医療に戻ってしまいました.これでは歯を生涯にわたり歯を守れない,MTMの本質を理解して歯科医療の本質を実践したことにはなりません.当時の僕は「メインテナンスが自費だから仕方がない」「東京には歯科医院が沢山あるから仕方がない」と自分に言い訳をしていましたが,原因は矯正歯科治療前から開始するMTMや長期に渡る矯正歯科治療の期間に,歯科医療の本質を患者に十分に伝えられ患者の行動や習慣を変えるまでの力が不足していただけと痛感しました.そしてこのままではこのハードルを越えられないと考え,昨年矯正歯科専門医院からオーラルフィジシャン歯科医院へと変わるための移転を行いましたが,その結果熊谷先生が番組内で述べられていた「削る」「詰める」に集中する普通の歯科医院がオーラルフィジシャン歯科医院に変わる際に直面するであろう「経営的な不安(これまでの矯正歯科主訴の患者の減少,自費のメインテナンスを医院経営の柱とする不安)」「衛生士の能力の不安(衛生士を育てる歯科医師の能力の不安)」に直面しています.MTMを開始して10年経ったにもかかわらず,改めて歯科医療の本質,歯の価値を伝える大切さを0から学び直している状況です.しかし常に自問自答し,あるべき歯科医療を実現させるためにブレずに前にだけ進みます.私たちの医院は偶然にもアップルデンタルセンター(ADC)に近く,当院のスタッフとADCのスタッフで情報交換したり,畑先生に指導してもらう機会も多くあるので,僕たちだけでは乗り越えられないハードルをADCの皆さん,畑先生の力も借りながら乗り越えていきます(ちなみに畑先生のインタビューに写っている曇りガラスの向こうで僕は聞き耳を立ててました)。
カンブリア宮殿を見て,また勇気をいただくことができました。ありがとうございました。