>開催内容
私は健康が許す限り、生涯現役の歯科医師であり続けようと思っている。それが私の最大の希望であり生きがいであるからだ。歯科医師になって以来、私は「患者さんにとってより良い歯科医療とは何か」ということを自問しながら臨床に取り組んできた。最初はより良い技術を、しだいに歯科医療のあり方そのものを求めて、国内外の多くの先生方に学ぶ機会を得た。得たものは診療室で必ずためし、科学と自分の感性を信じて取捨選択しつつ、今日あるような日吉歯科診療所のシステムを作り上げてきた。
しかしながら、日吉歯科診療所の診療システムは、歯科先進国の診療システムを考えれば、非常にオーソドックスなものである。特筆すべきものがあるとすれば、メディカルトリートメントモデルに則って患者個々のデータを丹念にとり続け、リスクアセスメントを繰り返し行いながら長期にわたりメインテナンスを継続してきたことである。
患者データの蓄積は、私たちに多くのことを理解させてくれた。日吉歯科診療所30年余の取り組みの結果は、膨大なデータの解析によっていくつかの論文となり、世界にも発信されている。これからの歯科医療は、こうした第3者評価にも耐えうるクォリティーを保つことも重要であろう。
私が今回の講演会を区切りに一般的な歯科講演活動から身を引こうと考えたのは、私個人が今日まで続けてきた歯科医療改革への提言がある程度社会に浸透したのではないかと考えたからである。もちろん、こうした考えが歯科医療界や社会を変えるまでには至らなかったが、個人として診療所のデータを踏まえた結果を背景に歯科医療のあり方を示し、診療所のシステムを公開し、スタッフ教育・患者教育についても常にオープンに語ってきた。そのことについての評価は別にしても、私個人の一定の役割は果たせたのではないかと感じている。
これから私自身が今と同じように仕事に打ち込める日々は限られているので、今後は歯科医師として過ごす時間の大半を、私の大好きな臨床に思う存分取り組み、生涯一臨床医として生きたいと念願している。ただ、若い歯科医師や歯科衛生士に対するオーラルフィジシャン育成セミナーや、学生に歯科医療の明るい未来を伝えるための各大学における授業は、今しばらく続ける予定にしている。
今回の講演では、私の40年余の歯科医師人生や日吉歯科診療所30年余の歴史を振り返り、今日までの歩みを自身で検証したい。そしてその歩みを共通理解したうえで、今私が思い描いているこれからの歯科医療の形をあらためて提言したいと考えている。今後の歯科医療界を背負ってゆく若い人たちが「患者利益」という共通の命題を共有しながら、どのような歯科医療を目指すべきか、また、その先に見えてくる新たな展望や、それを目指すために必要な経験や覚悟も含めて、私のメッセージを皆様にお伝えできればと思っている。
本来のスケジュールでは、9月に行われる日本大学における講演が、私のラスト講演になるはずであった。ただ、参加希望者全てにご参加いただけなかった経緯があり、大変申し訳なく思っていたところ、私のこうした気持ちを理解し、またこれまで多くの場面で支えて下さった(株)ナカニシ、(株)オーラルケア、シロナデンタルシステムズ(株)が共同で私にこのような機会を与えて下さったことは本当に有り難く、心より感謝申し上げる次第です。
2011/12/10の山形新聞に、本講演会について掲載されました。
本講演会には多数の皆様にご参加をいただきありがとうございました。
かねてからお伝えしていた通り、収入から経費を差し引いた金額を「財団法人 山新放送愛の事業団」に東日本大震災被災者支援を目的に寄付いたしました。
会場費、設営費に多くの費用がかかりましたが、参加していただいた皆様からの会場での寄付金に加え、主催3社および演者の無報酬の協力のおかげで、1,470,197円を寄付することができました。ご協力に感謝するとともにご報告させていただきます。
ありがとうございました。