SAT 真の患者利益のため予防歯科を中心にした歯科医療へ

歯科界の常識を超えるためのパブリック・コメント

歯科界の常識を超えるための
パブリック・コメント



NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」~ぶれない志、革命の歯科医療が放映されました 「カンブリア宮殿」に熊谷崇が出演しました 2017年新年のごあいさつ 日吉歯科診療所 あしたのコミュニケーションラボ

私的考察-なぜメディカルトリートメントモデルを実践すると歯を守ることができるのか-

チョコレート歯科医院
加藤大明

過去の学術論文を紐解くと、なぜメインテナンスに来院する患者の歯が守られるのかがよくわかる。


例えば、こういう臨床研究がある。スウェーデンのとある公立の歯科診療所で、う蝕、補綴治療を終えたグループ(平均年齢40歳)に対し、5年間、メインテナンスを行った。
しかし、結果は惨憺たるもので、いわゆる「30年の予防メインテナンス論文」で著名なアクセルソンの歯科診療所にメインテナンスに通った患者の6年間の平均う蝕発生歯面数0.2に対して、この公立の歯科診療所にメインテナンスに通った患者の5年間の平均う蝕発生歯面数4.4だった。
単純計算で22倍のう蝕発生数だ。なぜこのような結果になったのだろう。使う材料が違ったのか、あるいはメインテナンス時の施術内容が違ったのか。そうではない。この公立の歯科診療所では、臨床研究特有の緻密さで、来院間隔、使用材料、メインテナンス来院時のクリーニングを含む施術内容など、そのプロトコールについて、アクセルソンの歯科診療所で行われた方法をほぼ完璧に踏襲している。
では何が違ったのか。この論文の著者らは、それを「術者の口腔衛生指導の力量の違い」としている。
実際、公立の歯科診療所にメインテナンスに通っていた患者の平均プラークスコアは35%だったのに対し、アクセルソンの歯科診療所の患者においては81-95歳のグループですらその平均プラークスコアは15-20%だった。
日々、メインテナンスを目的とした多くの患者をむかえている歯科医師、歯科衛生士であれば、これがどれだけ大変な数値か実感を持ってご理解いただけるであろう。
では、アクセルソンの歯科診療所に来院している患者は、特別に器用だったのか、恐らくそうではない。明らかなのは彼らが「口腔内を清潔に保っておくこと」について歯科医師、歯科衛生士から強く動機付けされていたことだ。
例えば、年間の患者のメインテナンスからの脱落率が、一般的には5-17%であるのに対して、アクセルソンの歯科診療所ではその1/10以下の0.5-0.8%、日に二回以上歯磨きをする患者の割合が90%、日常的にフロス、歯間ブラシを使う患者の割合が80%以上とアクセルソンの論文には患者の高いコンプライアンスを示唆する数値が並ぶ。
そして、このことは偶然の結果ではなく、患者が高いコンプライアンスを維持するよう意図的にメインテナンス時に教育を行っていたことが考察からも読み取れる。
「本研究は定期的メインテナンスによりモチベートされ、高い水準の口腔衛生状態を維持することの価値を楽しみ、理解した集団に対する30年間の予防歯科医療の成果である。」と。


上述の研究は、メインテナンスを提供する上で、「患者が質の高いホームケアを行うように動機付けすることが本当に歯を守るためには重要」といったヒントなど示しているが、このことは、仮にアクセルソンの歯科診療所と同じ来院間隔、使用材料、施術内容でメインテナンスを行ったとしても、ポイント(患者の健康観を高める)がずれていては歯は守られないという教訓とも読み取れる。


さて、メディカルトリートメントモデル(以下、MTM)についてはどうだろう。MTMを、料理のレシピのようにAからZまで順番に行っていくだけで歯は守られるだろうか。
行き当たりばったりの治療中心の歯科医療の流れに比べれば、マシな結果にはなるだろうが、日吉歯科診療所の結果と比べて、まるで前述の公立の歯科診療所のような結果となってしまう可能性もあるだろう。
MTMを利用して患者の歯を守るためには、一人ひとりの疾患リスクを含む患者に特有の情報を整理し、(集めることが目的化し、それに満足するのではなく、)それを基に患者を徹底的に教育すること、そしてプロセスを通じて、患者に寄り添いながら実現可能な未来の姿を共に想像し、健康観を変えていくこと、これらのポイントを絶対に外してはならないと思う。2014年に放映された熊谷崇先生出演のNHKプロフェッショナルにて、80代の老人がお酒に酔いながらも必ず歯間部の清掃を行って床に着く様子が放映された。また、子供達はお母さんに歯ブラシで仕上げ磨きをしてもらうことに加え、さらに仕上げフロスをしてもらうことに喜びを感じていた。彼らこそ、MTMにより豊かな健康観が育まれ、歯を守るメインテナンスが提供され続けている患者の本当の姿だろう。


近年、患者に個別化された情報提供や動機付けを行うことが医療の結果を左右するか、という臨床的疑問を検証するための研究が数多く行われており、多数においてポジティブな結果が認められている。
歯科においても、例えば、イエテボリ大学ではモチベーショナルインタビューという手法が患者のアウトカムにどう影響するかについての研究がなされており、またイギリスではpersonalized oral hygiene adviceという、より個人に特化して行う歯科予防的アプローチの効果が研究されている。
MTMを用いると患者に対してなぜ良い結果をもたらすことができるのかという実験的検証も、今後このような研究の系譜に連なっていくことだろう。


追記
本稿でご紹介したスウェーデンの公立の歯科診療所の研究を含め関連する参考文献については、デンタルハイジーン2016年11月号掲載の拙稿を参照していただければ幸いです。また、適切な診査、診断が行えること、規格性のある資料を採取できること、歯石を含むバイオフィルムが確実に除去できること、正確な修復、補綴治療を行えることetc、といった歯科医師、歯科衛生士として常識的な医療を提供するための知識と技術を持ち合わせていることが、本稿の前提であることを申し添えます。