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活動報告


オーラルフィジシャンチームミーティング活動報告

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総括

2009オーラルフィジシャンチームミーティングを終えて

(医)日吉歯科診療所 熊谷 崇


熊谷先生 第4回目となる「2009オーラルフィジシャンチームミーティング」が今年も酒田市の東北公益文科大学で7月4・5日の両日にわたり、約600名の参加者を得て開催されました。歯科医療界にも世界的な不況が色濃く影響しているといわれる中、日本中から多くの方々にお集まりいただき、熱気あふれる時間を共有できましたことを大変嬉しく思っています。  これまで、チームミーティングはオーラルフィジシャン診療所の取り組みを発表する場という認識のもと、毎年活発な発表が行われてきましたが、今年はそのようなプログラムを見直す意向を含めて、これまでとは異なるプログラムを組みました。


 初日は、まずオーラルフィジシャンセミナーの講師でもある、斎藤直之先生とスタッフによる「緑町斎藤歯科医院の現在と未来」と題した発表から始まりました。オーラルフィジシャン診療所として着実に必要な力量を身につけ、自院の成長とともに必要なシステムや技術を取捨選択し、目標に向かって順調に前進している様子が大変よく分かる発表でした。オーラルフィジシャンセミナーの講師であっても、また日吉歯科診療所においても、こうした姿勢は常に持ち続けることが大切です。これでよいと考えるところに成長はありません。多くのオーラルフィジシャン診療所にとって、非常に参考となる発表だったと思います。

続いて、今回のチームミーティングの最大の見どころとして企画され、オーラルフィジシャン診療所を運営してゆくための大きな問題でもある「医療経済」に焦点を当てた「歯科医療経済最前線」と題したシンポジウムを行いました。


 今回のシンポジウムには、医療経済を研究されている一橋大学教授井伊雅子先生、医療とは直接的な接点はないものの、文化や考え方の違いを超えて、中国で悪戦苦闘しながら中国一の売り上げを誇るデパート経営を成功させた稲葉利彦氏、東北公益文科大学学長で経済学がご専門の黒田昌裕先生とオーラルフィジシャンセミナーの講師陣、太田、齋藤、熊谷が加わり、司会はNHK•BSで長く「経済最前線」のキャスターを務めてこられた石山智恵さんというメンバーで行われました。

 参加者の多くは、このような視点で歯科医療を考えた経験はなかったと思いますが、歯科医療をこうした視点でとらえ直すことによって、そこに新しい見方や考え方が生まれ、診療所のシステムを再構築したり、新しい歯科医療の考え方を効果的に地域に浸透させるための戦略にヒントを与えてくれるはずと考えます。特に、稲葉利彦氏の中国でのご経験はオーラルフィジシャンという新しい歯科医療を多くの人に理解してもらうという難しさを乗り越えようとする時、私たちが日常的にぶちあたる障害をどう乗り越えてゆくべきなのか、大変示唆に富んだお話だったと思います。


 オーラルフィジシャンが、自分の診療所を確かな患者利益につながる診療所として育て上げてゆくためには、診療所という狭い枠組みの整備だけでなく、これを社会で有益にいかすためのフィールドもまた構築していかなければなりません。そのためには今回のようなディスカスを繰り返し、様々な立場の人の声を反映するような場を作ってゆくことで社会に働きかける必要があると思います。私たちは臨床でデータを積み上げ、その結果を提示することでこれからも引き続き外にも働きかけたいと思います。また、歯科医療も社会の経済活動の一翼を担うものであり、医療や福祉の充実は国家の経済基盤により大きく影響を受ける分野であることから、黒田昌裕先生にお話いただいたように、グローバルな視点での経済の動きを理解しておくことは、世の中の先を見据えて視野を広くするという意味でも必要なことであろうと思っています。そして、政府の地方分権改革推進委員会のメンバーでもある井伊先生や内閣府経済社会総合研究所の所長でもある黒田先生には、私たちの活動とその結果を理解していただいた上で、日本の歯科医療行政のあり方に新しい風を吹き込んでいただくために力をお貸しいただければと思っています。




 2日目のプログラムは、日吉歯科診療所および日吉歯科の卒業生の発表でした。午前中は、これまであまりクローズアップされることのなかった子どもたちに対するオーラルフィジシャンとしての取り組みを
「20歳までの成長期の歯科医療」と題し、多くの健康な子どもたちをどのように育てていくことができるのか、診療所のデータで結果を示しながら「小児歯科」「矯正歯科」「予防歯科」「障害者歯科」の枠を越えた歯科医療の形を示すことができたと思います。特に、成長期における矯正治療の介入の基準や顔面パターンによる見分け方など、一般歯科医でも臨床で役立つ情報だったと思います。

 そして、むし歯や歯肉炎や歯列や咬合の不正を持たない健康な子どもたちをたくさん育ててゆくことも、私たちオーラルフィジシャンの大切な役目であると認識すると同時に、こうした歯科医療については安易な取り組みではなく、診療所の中で専門家を育てることの大切さも理解していただきたいと思いました。  午後の前半は、日吉歯科診療所で毎月行われている症例発表会の再現として、4名の歯科衛生士が発表しました。日吉歯科診療所では毎月、ベテラン歯科衛生士部署、中堅衛生士部署、U20部署、歯科医師部署ごとに様々な症例について提示し、意見を交換する場を設けています。このような取り組みは、規格的な資料の蓄積の大切さを知り、他部署での取り組みや長期症例から多くのことを学び、歯科医療を見る目の幅を育てることにつながっています。


 今回はこれまで日吉歯科で行われた発表の中から、4つの発表を選択し提示させていただきました。その発表において、口腔内写真をはじめとするすべての患者データがそろっていることで、説得力のある発表になっていたことに気付いていただけたと思います。日常臨床の中で一人一人の患者さんに対し、MTMが確実に実践されていることを示しており、また、確実に患者利益につながり、術者のスキルアップにつながっていることが理解していただけたと思います。オーラルフィジシャン診療所では、MTMの実践により患者資料を蓄積しているはずですから、患者データを見返し考察することによって、診療内容がより充実してゆくはずです。各々の診療所でもそのような取り組みをスタッフ教育の一環として取り入れていただくことをお勧めします。今後、オーラルフィジシャンとしての発表の折には、日常臨床においてMTMが確実に実践されていることがきちんと分かり、かつエビデンスを踏まえた発表であることを条件にしたいと思います。オーラルフィジシャン診療所はそのシステムが整っているだけではなく、診療内容やその結果についても一定の水準が担保できていることが必要です。


 日吉歯科診療所で行われている新人衛生士教育も、多くの診療所にとって参考になったのではないでしょうか。今年、日吉歯科診療所では4人の新人歯科衛生士が入所し、そのうち3人は4年制大学卒ということもあって、新たな新人歯科衛生士教育プログラムがスタートしました。その取り組みについてを報告させていただいたのですが、日吉歯科に限らず、新人衛生士をきちんと教育し、仕事の意欲を高め、長くその診療所で多くの患者さんの健康を守るために活躍してもらうことがオーラルフィジシャン診療所としては大切なことです。診療所の質を上げるためにも、新人教育にしっかり取り組んでいただきたいと思っています。


 今回のミーティングの最後の発表は、日吉歯科卒業生の菅野宏による「オーラルフィジシャンとしての治療介入」と題しての発表でした。子どもたちにはできるだけ治療の介入をしない歯科医療の確立が目標ですが、成人については多くの場合何らかの治療介入が必要です。その治療介入にあたって、オーラルフィジシャンはMTMの実践を踏まえて、どのように治療計画を立て、どうそれを具現すべきなのか歯科医師としての力量が問われます。その力量を示すためには、治療計画や治療の実施にあたって、それを選択する根拠が明確に示されていなければなりません。そしてそれは、患者の経済力や希望で本来左右されるものではなく、きちんとしたエビデンスによって裏付けられたものであるべきと考えます。そのような観点で今回の発表をとらえると、まだその治療計画や治療の実施にそうした明確さが足りなかった部分もかいま見られ、今後に課題を残す発表でした。私が今回のミーティングの最後に引用した、マクガイア先生の歯科医療に対する考え方(歯界展望8月号に掲載予定)をもう一度読み直し再考察してほしいと思います。ただ、難しい課題を発表者なりによく考えた経験は、これからの診療や発表に生かされるものと思いますので、今後を期待したいと思います。


 今回はじめて実施したポスター発表は、26の個人やグループのエントリーがあり、予想を超えて多くの方に参加していただきました。そのため会場が狭いなどご迷惑もおかけしましたが、力作の発表がそろって盛況でした。あの熱気はさすがオーラルフィジシャンチームミーティングならではと思いますので、来年以降も継続したいと考えます。


 最後に、参加協力をいただいた、各企業の皆様にも心より御礼を申し上げます。本当に有難うございました。

 それでは、また来年皆さんとお会いしたいと思います。その時はオーラルフィジシャンとしてより成長した姿でお目にかかりましょう。



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