SAT 真の患者利益のため予防歯科を中心にした歯科医療へ

歯科界の常識を超えるためのパブリック・コメント

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パブリック・コメント



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予防先進国スウェーデンから見た日本の歯科医療と将来の歯科医療

2016年5月
スウェーデン王立マルメ大学う蝕予防学教室主任教授
ダン・エリクソン教授
interviewer:西 真紀子


スウェーデンは1970年代から世界の予防歯科をリードしてきました。歯科におけるメディカルトリートメントモデル(医療の観点)という概念もスウェーデンのカリオロジー(むし歯の学問)の父である故ボー・クラッセ先生が提唱されたものです。クラッセ先生の教え子だった故ダグラス・ブラッタール先生は、日本の予防歯科の発展に多大な貢献をされました。特に熊谷崇先生とそのスタディグループを全面的にサポートし、1999年にはスウェーデン・マルメ大学から名誉博士号を熊谷崇先生に授与されました。同大学歯学部カリオロジー講座の主任教授であったブラッタール先生は教授就任から教え子のダン・エリクソン先生を右腕として迎え、お二人揃って来日されたこともあります。2006年にブラッタール先生が亡くなられてからはエリクソン先生が同講座を引き継ぎ、オーラルフィジシャンセミナーの受け入れなど、変わらぬサポートを続けてくれています。2014年に放送されたNHK「プロフェッショナル仕事の流儀」では、冒頭に出演されたのでお顔をご存知の方も多いでしょう。


エリクソン先生はカリオロジーについての教科書も出版されています。またナショナル・ガイドライン作成の責任者もされました。スウェーデンはノーベル賞の国らしく、歯学の中でも様々な分野で新しい概念や製品を開発していますが、エリクソン先生も例にもれず、カリソルブ(薬剤によりむし歯を化学的に溶解し、痛みなく簡単に取り除けるようにするシステム)の開発が有名です。そのエリクソン先生に日本の歯科医療の変化について、また、歯科医療の将来についてお話を聞く機会がありました。


西 真紀子

日本に最初に来られたのはいつでしょうか?またそれから何回くらい再来日されていますか?


ダン・エリクソン先生

私が日本へ最初に行ったのは1990年ごろでした。その後数回訪れています。


西 真紀子

その間、日本の歯科医療に変化は感じられましたか?


ダン・エリクソン先生

最初に訪れた時、日本の歯科医療は多くの点でスウェーデンの事情と違いがありました。そのうちの1つは、スウェーデンではメインテナンス患者の割合が日本に比べてずっと多いということです。


西 真紀子

それは今現在でも大きく違いますね。


ダン・エリクソン先生

スウェーデンではメインテナンスを受けるのがずっと前から伝統として根付いています。リスク(病気のなりやすさ)に基づいた間隔でメインテナンスを受けることが、いくつかのメカニズムによってお口の健康を向上させるものだと私は強く信じています。例えば、次のメインテナンスの時にまたその患者さんに会うと歯科医師が分かっていたら、初期むし歯を削って詰めようとは思いにくいでしょう。むしろ、患者のモチベーションを利用してその初期むし歯の進行を止めるよう試みるのではないでしょうか。


西 真紀子

元に戻る可能性がある初期むし歯があると患者さんが知ると、それを健康な状態に戻すために、食習慣を見直したり、フッ化物を使うことに協力的になるでしょうね。私も日焼けしてしまったと気がついた時に、それまで忘れていた日焼け止めクリームを注意深く塗り始めることがあります。本当はその前に気がついているべきなのでしょうが、モチベーションは問題に気がついた時に急激に高まるものですね。


ダン・エリクソン先生

むし歯の進行はかなり遅いことが多いので、次のアポイントに患者を診るとわかっていれば、それまでに取り返しがきかないほど悪くなることはなく、挽回がきくのです。また、患者が頑張ったことに対するフィードバックをしてあげることもできます。 話を日本の歯科医療の変化に戻すと、最近の来日時には、その時お会いした歯科医師や歯科衛生士の印象から、随分、歯科予防的アプローチが進んできていると思いました。


西 真紀子

エリクソン先生は、日本だけでなく、スウェーデンでもたくさんの日本人歯科医師や歯科衛生士に会われていますね。2007年から3度に渡りオーラルフィジシャンセミナー・マルメ大学研修旅行を受け入れておられます。この研修旅行の印象はいかがですか?


ダン・エリクソン先生

患者さんにとって最高の歯科医療について興味を持っている、知識が豊かで熱意のある皆さんにお会いできるのは、いつも素晴らしいことだと感じています。全ての教育の形態でそうですが、講師も参加者から多くを学ぶものです。また、コース中に上がった質問により、違った角度への視野が開けたり、ある状況に対するより良い方法が見つかったりします。


西 真紀子

2007年からそのコースに変化は見られましたか?


ダン・エリクソン先生

コミュニケーションが良くなり、自発的な質問が増えたと感じます。これは全ての人にとってとても良い刺激になっています。


西 真紀子

オーラルフィジシャンセミナーを受けた方たちから、さらに選ばれた人がSATグループの一員になります。先生はSATグループに何を期待しますか?


ダン・エリクソン先生

口腔疾患予防のための‘バリケード’になってください!


西 真紀子

(笑)どうもありがとうございます。歯科医師が盾になって敵(病気)を封鎖し、患者さんを守り抜かなければなりませんね。ところで、30年後の歯科医療の展望について、先生はどうお考えでしょうか?


ダン・エリクソン先生

砂糖をむし歯、糖尿病、心血管疾患の共通のリスクファクターとするWHOのステートメントによって、おそらく、むし歯予防は少し楽になるだろうと考えています。むし歯予防だけではなく、全身疾患の予防のためにも砂糖の消費量を減らすように患者さんを動機付けることができるのではないかと思います。


西 真紀子

先進国では肥満も大きな問題ですから、その解決にもむし歯予防が一役買いそうです。


ダン・エリクソン先生

多くの国が砂糖に税金をかけようと試みています。これも私たちの努力を後押ししてくれるでしょう。しかし、ソフトドリンクの製造会社はこの動きに反対しています。まあ、砂糖は健康に悪いものだという知識は広まっていくでしょう。


西 真紀子

スウェーデンも日本も高齢化社会に突入していますが、その点でこれから歯科医療はどう変わっていくでしょうか?


ダン・エリクソン先生

人口動態が変化し、特別なケアが必要な、多くの歯を持つ高齢患者が増えていきます。そして、これは世界中におけるチャレンジです。


西 真紀子

予防が進んでいるスウェーデンでは、多くの歯を持つ高齢者が本当に多いですね。それは日本にとっても未知の世界なので、この先も日本はスウェーデンの経験から多くを学ばなければいけないと思います。ITなど新しい技術との融合によって歯科医療の課題が解決できればいいですね。


ダン・エリクソン先生

むし歯予防でも、新しい方法や再検討される方法が登場するでしょう。例えば、フッ化ジアンミン銀は小児早期齲蝕や高齢者の根面齲蝕の予防のために使われるようになるでしょう。世界中で。


西 真紀子

最後の質問ですが、教育について、最近の世界歯学部ランキングで、スウェーデン3校の大学がとても高く評価されていました(1位カロリンスカ研究所、3位イエテボリ大学、21位マルメ大学)。この理由は何だと思われますか?


ダン・エリクソン先生

そのようなランキングは常に評価が難しいものです。一部はスタッフや学生へのアンケートに基いています。大学や国の中にはアンケートに答えるのにとても熱心なところもあり、そのようなことが理由で結果が反映されていると私は思います。違うランキング方法では、違う大学が登場するでしょう。


西 真紀子

確かに、主観的要素が結果を決めているところはあるでしょうが、先生のご謙遜がかなり入っていると思います。確か、マルメ大学はスウェーデン内のランキングで歯学部教育に対する評価が1位でしたね。それにしても、教育の質の高さがスウェーデンの歯科医療を支えているのではないでしょうか。


ダン・エリクソン先生

そうですね。スウェーデンの歯科医療は、実質的価値のある教育、予防に焦点を当てること、臨床に関連した質の高い研究によってここまで来たのだと思いたいですね。


西 真紀子

大学教育と研究に長年関わってこられたエリクソン先生方の視点の素晴らしさとご努力の影響は大きいはずです。今日はお忙しいところ、丁寧にお答えいただきまして、本当にありがとうございました。

(翻訳:西 真紀子)